アブ・シンベルからフィラエまでのヌビア遺跡群(エジプト)
移築される前に数カ月、壁の半分ぐらいまで水に浸かっていたので色が変わっていると説明された。確かに色が少し違うが、気にならなかった。
右手には上部に彫刻を施した柱が並んでいる。パピルス、ハスなどを表しており、パピルスはナイル川下流の下エジプト、ハスは上流の上エジプトの象徴で、共存しているのは統一エジプトの証だという。
しかし、塔から離れた方の柱は、柱頭の彫刻がされていない。この一帯の遺跡は、末期王朝最後の第30王朝時代(紀元前380年~)から建設が始まってローマ時代まで続いたというが、どうやら完成しなかったということらしい。
ただ、後世の人にとっては、建築過程がよく分かる貴重な神殿になった。
精緻なレリーフが刻まれた神殿内
塔門をくぐって神殿の中に入る。壁に囲まれた庭のようになっていて、壁面にはさまざまなレリーフが刻まれている。さすがに名前の通り、イシス女神に関するものが多い。
エジプトの神話や神々の家系図を知っていれば、もっと楽しめると思う。ちなみに、イシス女神は太陽神ラーの娘、冥界の王オシリス神の妹で妻、ハヤブサの姿をした天空の神ホルス神の母というなにやら複雑な感じだ。
レリーフにもこれらの神々はふんだんに登場する。太陽光や風雨にさらされていなかっただけあって、繊細なレリーフはかなりくっきりと残っている。ただ、神殿内は照明が暗いので、目を凝らしてみないとはっきり分からないところもある。
フィラエだけではなく、神殿のレリーフなどでよく見かけるのが「アンク」(Ankh)という「生命」「命のカギ」と呼ばれるもの。十字の上に輪がついたような、動物の雌を表す記号のような、♀の形をしている。そういえば、ツタンカーメン(Tutankhamen)にもアンクが入っていた。
人が手を横に伸ばした形ともいわれているそうで、フィラエでも、神や王、王族が輪の部分を手に持った状態で描かれている。この「命」のやりとりといった描き方が大切らしい。土産物でも銀製アンクをよく見かけるので、興味のある方はどうぞ。
ユネスコの水没からの救済事業では、アブ・シンベル、フィラエ両神殿ほかカラブシャ神殿など14の遺跡がナセル湖の水面より上に移築され、当時で費用は8000万ドル(288億円)以上かかったという。一からつくったら、この額では済まないだろう。
アスワンハイダムによってエジプトの治水は大幅に向上して暮らしがよくなったという。価格で遺跡の価値が決まる訳ではないが、現在と過去を両立するのはそれぐらい大変だということなのだろう。
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