屋久島(日本)

縄文杉の懐で夜を過ごす

縄文杉といったん別れ、さらに進むと避難小屋「高塚小屋」がある。3階建で、寝袋を5つ並べられる1階に陣取った。宿ではなく、どうやら、どこに寝るかは先着順らしい。久しぶりにトイレもある。

夕方にもう1度縄文杉に会いに行くと、午後から登り始めて避難小屋に泊まろうという登山者も到着してくる。足元が見えなくなりそうになって引き返した。小屋では譲り合って入れるだけ入り、外にテントを張る人もいる。

外国人も含め30人ほどが夜を過ごした。電気はないので懐中電灯などの明かりの下、ガイドが背負ってきてくれたビールと屋久島の焼酎「三岳」がうまい。リュックが重かった理由が分かったので、軽くするために全部飲み干した。

翌朝「登山道は上り優先なので、上りの人が来る前に大株歩道入口まで行きましょう」と5時半に出発。朝日に照らされる縄文杉は、神々しいという言葉がそっくり当てはまる美しさだった。手を合わせて、別れを告げた。

 

侮れない下り道

下りも曲者だ。上りは筋肉を使うが、下りは下半身の関節にもろに体重がかかる感じ。日ごろの不節制もあって、ひざや股関節がギシギシいう。夫婦杉、大王杉を横目に、足元に注意しながら下る。日帰りはさぞ大変だったろうと想像がつく。

ウイルソン株手前の「一番おいしい」とガイドお勧めの水場でペットボトルを満タンにし、思惑通り、上りの人とすれ違うことなく、2時間ほどで大株歩道入口まで一気に下りた。

 

トロッコ道を戻り、楠川別れという三叉路に着く。トロッコ道を北へ曲がると、辻峠、太鼓岩を通り「白谷雲水峡」へ続く楠川歩道になる。白谷雲水峡は、映画「もののけ姫」の舞台のイメージになった場所だ。

「ひと山越えますので、まず上ります」とガイド。このひと山がきつい。木の根がむき出しになっていたり、岩場があったりと、縄文杉に向かう道よりも足元があまり整備されていない。ただ、こちらの道は明らかに光の色が違う。緑に囲まれている。

白谷雲水峡へのきつい道のり

1時間弱で「辻の岩屋」につく。大きな一枚岩が大きな岩の上に乗っかって斜面から突き出ていて、ひさしのようになっている。絶妙のバランスで成り立っているのだろう。ここも「もののけ姫」のモチーフになった。

縄文杉に向かう大株歩道ではさほど目に付かなかったが、この楠川歩道では苔に覆われた杉をはじめとした木々、岩が目立つ。あまり人が入らないからだろうか。環境が違うのだろうか。日の当たり方は確かに違う。苔むす景色になる。

登山道の周りは苔に覆われ始める

 

山道を登っていくにしたがって、道の周囲の森は緑色を濃くしていく。岩や倒木全体が苔に覆われ、「もののけ姫」に出てくる木霊(コダマ)が本当にカチカチいっていそうな雰囲気だ。

ほどなく、といっても急坂で足を上げるのもきつくなってくる。手にしたストックを頼りに、なんとか白谷雲水峡の最上部、辻峠にたどりつく。

辻峠から、屋久島の山々を一望できる太鼓岩を往復できるが、あいにくの霧で眺望が望めないということであきらめ、白谷雲水峡に下っていくことにした。この周辺は世界遺産登録地域の外になるが、たぶん容易に足を踏み込めない登録地域は白谷雲水峡のような場所なのだろうと、想像がつく。

もののけ姫の世界へ

川に沿って下る。周囲の「苔むす度」は上がっていく。足元から水が染み出るところもあり、湿地になっているようだ。「苔むす森」と名づけられた場所に着いた。「もののけ姫」の世界が広がる。

サンやアシタカ、モロ一族に乙事主、ディダラボッチも、まとめて出てきそうな雰囲気というのは少し大げさかもしれないが、時間さえあれば一日中、身を置いておきたい空間だ。

ただ、簡単な柵があって立ち入り禁止になっているにもかかわらず、中に入って岩の上に乗って写真でも撮ったのだろうか、岩に張り付いた苔の一部が剥ぎ取られ、せっかくの景観を台無しにしている。

「どうしてこういうことをするんでしょうかね」と、ガイドもため息をついていた。苔が元に戻るまでどのぐらいかかるのだろうか。

気を取り直して、さらに下る。苔ワールドに目を奪われがちだが、屋久杉の巨木も多くある。樹高18メートル、胸高幹周り8・3メートルの「七本杉」が道の脇に立つ。上部が7本に枝分かれしている。

白谷小屋でヤクシカを見ながら昼食を摂ってさらに進む。樹高22メートルの「くぐり杉」が道の真ん中に。根元が2つに分かれていてその間をくぐれる。元々は倒木の上に生えて2方に根、幹を伸ばしたが、間にあった倒木がなくなって空間ができたということらしい。

巨木が点在する森

江戸時代から木材運搬に使われた石積みの古道を通って、川の音が大きくなってきたら終点が近い。「飛流落とし」という割れた岩の間を流れる落差50メートルの滝が見えたら、高塚小屋を出てから7時間、白谷雲水峡の出口(本来は入口)がすぐだ。

楠川歩道から分かれている歩道がいくつかあり、大杉、奉行杉、弥生杉といった名のある巨木を見られる道があるが、体力が続きそうもないのであきらめた。

飛流落としの下流でほてった足を川の水に浸した。近くでヤクシカが見ている。屋久島の山中、確かに五感が刺激された2日間。体が持ってくれたのは幸いだった。

 

1993年登録

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