ウルル・カタジュタ国立公園(オーストラリア)
エアーズロック・リゾート~ウルル~カタジュタ
風にあおられて、ストローハットが急斜面を転がり落ちていく。だれが飛ばされたのだろう。左手で握った鎖を離さず、ちょっと立ち上がって下をみると、確かに落ち始めたらどこまでも転がっていきそうだ。
ウルル(Uluru)、かつては「エアーズロック」( Ayers Rock)と呼ばれていた。砂漠の中にある世界一の一枚岩を登ろうと思い、1998年、行ってみた。
ウルルに登ってみた
アボリジニの人たちにとっては「聖地」であり、登山に反対してきた。当時はオーストラリア政府が認めていたので登ることが可能だったが、2019年10月26日から全面的に禁止になった。
比較的なだらかな稜線になっている登山口に向かった。手前にトイレがあるので、登る場合は寄っていくことをお勧めする。頂上には何もない。ただし、トイレに長居は禁物だ。登山口が開いていても、風が吹き始めると、すぐに登山禁止になる。
登っている列の途中で「これからダメ」という具合に突然禁止になることがあり、仲間は登り始めたのに自分は行けないということも起こる。この日も登り始めて5分もしないうちに、風のため登山禁止になった。ダメと言われた人たちは気の毒だった。
アボリジニの儀式や強風、滅多になさそうな雨や、砂漠なので気温が高くなりそうなときなど危険と判断された場合、登山禁止になることが多いそうだ。
チキンロックを越えて
少し登ると、最大斜度45度の急斜面になる。ここであきらめる人も多いため、その脇にある岩は「チキンロック」と名づけられている。転落防止のための鎖も登場した。風に飛ばされそうになり、鎖をしっかりつかみ、登っていく。
水を持って行くのを忘れずに。途中で風よけにいい感じのくぼみもあり、休みながら水を飲み、さらに登る。
時々後ろを振り返ると、カタジュタ(マウント・オルガ)が遠くに一望できる。砂漠の光景もいい。
急斜面を登りきると、なだらかな平坦部にでる。ただ「平ら」ではない。侵食された溝が行く手に待ち受ける。またぐのが無理な幅のところも多いので、溝を下りては登り、の繰り返し。
山頂は平らではない
1㍍下りて2㍍登る、3㍍下りて3㍍登る、なんてことが延々と続くので、意外と足にくる。簡単なルート表示があり、人が歩いた跡で岩肌に道のような筋がついているので迷うことはないが、道らしい道ではないので、なんとなく前の人についていく。
登山道からちょっとそれて、頂上の端の方へ少し行ってみた。ただし、登山道からそれるのは反則らしい。下をのぞき込んでみようかと思ったが、つかまるところがなく、転がると一気に下まで落ちそうなのでやめた。
岩肌は、サメ肌というか、サンドペーパーのようというのだろうか、砂岩でできているので、ザラザラした感じだ。7000万年前には今のように地表に出た姿だったというから、どのぐらい浸食されたかは分からないが、相当硬いのだろう。転ぶとひどい擦り傷になりそうなので、足元には気をつけたい。
高さ335㍍、たどり着いた頂上には、簡単なモニュメントがポツンとある。カタジュタの方向を向いて、岩に腰を下ろす。砂漠に来ると、水が一番のごちそうだ。
ひと息入れて、来た方向へ引き返した。幸い、風は弱まっていたが、最後の下り傾斜も当然きつく、時々ロープに手をかけながら降りる。ただ、ざらざらしているので乾いていればまず滑らない。
泉が沸く砂漠の一枚岩
下山した人、登山できなかった人、しなかった人は、ウルルのふもとにあるアボリジニの遺跡で岩絵などを見学できる。岩絵の古さは分からなかったが、ここではさまざまな儀式などが行われたのだろう。岩肌には大きな穴がいくつも空いている。
砂漠の真ん中とはいいながらも、ウルルの麓には水が湧き出しているという。池になっているところもある。そうそう雨は期待できない。わずかに降った雨を岩の中にためているのだろうか。不思議な岩だ。
ウルルは、太陽の光で7色に変化するという。ツアーで行く場合、組み込まれているのが、サンライズ(日の出)とサンセット(日没)のウルル鑑賞会。登山の後は、展望所で夕日を楽しむシャンパン・パーティーが待っていた。
夕日に輝くウルル
下山後、展望所に到着した時はまだ日没まで30分ぐらいあるため、ウルルの色は薄い赤茶。即席のテーブルに載っているオードブルをつまみ、シャンパン、ワインなどを飲みながらでも、常にウルルに目を向けておこう。
刻々と色が変わっていく。日が傾きを増すにつれて、ウルルは鮮やかな「オレンジ」になっていく。岩の凹凸の影も濃くなっていく。赤と黒のコントラストが鮮やかになっていくところを見逃さないように。
やがて、砂漠のくすんだ色の風景の中に、ウルルだけが真っ赤に浮き上がる。最も美しい瞬間だ。
日が沈み、光線が当たらなくなると、最後は白っぽく、薄暗くなってきた空に溶け込み始める。
暗闇が駆け足でやってきて、10分もすればあたりは真っ暗。バスに乗り込み、車窓からウルルに目をやると、星空の中に黒々とした稜線が浮かび上がった。
南十字星はどこに
その夜。空気が澄んでいるのだろう。「星をまいたよう」な砂漠の夜空が広がる。せっかくきた南半球。日本では見られない星座を見つけようと、ホテルで「星座マップ」をもらったが、見慣れないものが多いので探しにくい。
南十字星だけは見逃すまいと、ホテルの従業員に尋ねた。「ウーン、たぶんあれかな」と空を指差すがはっきりしない。「よく知らないんだ」だって? まあ、地元の人ほど知らないということはよくある話。
日本で南半球からの旅行者に「北斗七星は?」と聞かれて、すぐに見つけられるかどうか。「東京だと、はなから見えない可能性が高い」と思いながら、お互いに肩をすくめた。
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