アンコール遺跡(カンボジア)

アンコール・ワット~プノンバケン~トンレサップ湖~アンコール・トム~タ・プローム~バンテアイスレイ

1999年当時のシェムリアップ国際空港の入国審査場は、大学教授が講義に使うような机がポツンとあるだけで、囲いもない。

思い当たる節がなくてもなんとなく緊張する通関時だが、雰囲気からしてフレンドリー。パスポートを差し出すと、机に片ひじついた職員はにこっと笑いながらスタンプを押してくれた。

「アンコール・ワット」という名前の響きに誘われて、行ってみた。街から一本道を進み、目の前が開けると、アンコール・ワットが突然姿を現す。

堀を渡る参道の前に立つ。どこか変なのは、参道の右側はちゃんと平らに石積みされているのに、左側の石積みはガタガタで、歩けそうもない。

「右は日本やフランスが修復、左は××が修復したのですが、技術に差があったようです」と、ガイドが説明した。

また、ポル・ポト派による内戦、支配による爪跡は遺跡全体にあり、建物や仏像が破壊されたり、弾痕が残っているところも多いという。各国が修復にあたっていて、シートをかぶせられた遺跡も多数あった。

修復が進められていた

つくしんぼうの塔が目に入る

てっぺんが欠けた塔3基がある「西大門」をくぐると、前方につくしんぼうのような、特徴ある塔が現れる。参道がまっすぐ伸びる。

参道の両側の欄干(手すり)はナーガ(ナーダ)と呼ばれる多頭の蛇の胴体。先には7頭のナーガ像がある。そのほかでも胴体を阿修羅に引っ張られている姿の石像で頻繁にお目にかかる。

9頭や5頭のものもあった。日本で言うとヤマタノオロチのようなものだろうか。「水の神」だといい「そういえば日本でも中国でも、蛇や龍は水の神だな」と思い、ナーガの頭をなでた。

最近つくられたお墓にも「守り神」として建てられているので、カンボジアの人たちに愛されているのだろう。

レリーフに彩られた回廊に天女の微笑み

参道を進むと、まず屋根に覆われた第一回廊に入る。

予習できる方は、インドの叙事詩「ラーマヤーナ」「マハーバーラタ」に、ヒンドゥーの古典などを少しかじっておくことをお勧めする。回廊の壁にたくさんの彫り込まれているレリーフの題材になっているからだ。

「世界はヒンドゥーの神々と阿修羅が大蛇を綱引きし、乳海を攪拌して甘露に変わった」「婚約者を魔王に奪われた王が、猿の軍団と手を結んで取り返す」…そんな物語や、アンコールワットを建設したスーリヤヴァマン2世の伝記物語など、第一回廊の壁全体に精緻なレリーフで表現されている。

アンコール・ワットは仏教寺院だと思ったが、12世紀に建てられたときはヒンドゥー教寺院で、一時放棄された後、16世紀に仏教寺院に改修されたという。回廊の壁画などはそのまま残されたらしい。

照明はほとんどなく、窓(?)から差し込む光だけなので、奥や天井は目を凝らさないと見えないところもある。回廊の窓にある、そろばんの玉のような石の格子(連子窓)が、妙に印象に残った。

たくさんのレリーフが壁面にあるが、スターは女神「ディヴァダー」。この天女のレリーフがいたるところに彫られ、全部見たわけではないが、みんな微笑みを浮かべている。

 

微笑みを浮かべるディヴァダー

もちろん手づくりだから同じものはない。モデルがいたのだろうと思わせる。探せば、きっと好みタイプのディヴァダーをみつけられる。

 

密林に覆われていた寺院

アンコール・ワットは「寺院のある町」の意。9~13世紀に栄えたアンコール王朝の中で、12世紀に建てられた。大まかにいうと堀と参道、5つの尖塔を持つ中央祠堂とそれを取り囲む3つの回廊からなる。

つくしんぼうのような尖塔は象徴的な存在だ。中央祠堂には第二回廊から上ることができた。階段は急傾斜で、つかまる鎖もある。

階段といっても幅が狭く、角が磨り減って丸くなっているので、普通に上り下りできる代物ではない。階段というよりは塔のデザインの1つのように思えた。

上るときも下るときも、下を見ないほうが身のため。踏み外したら、一直線に下まで滑り落ちかねない。上った先に第三回廊と中央祠堂。きれいな布をつけた仏像が祀ってあった。

12世紀に建てられたアンコール・ワットだが、14世紀にはシャムのアユタヤ王朝との戦争で荒廃、15世紀半ばにはアンコール・ワットを含むアンコールの都は放棄されたとされる。

17世紀に日本人も訪問していた

ただ、17世紀前半に日本から来た森本右近太夫がアンコール・ワット内に墨書を残し、仏像4体を奉納したというので、仏教寺院として存続していたらしい。

17世紀後半から18世紀にかけて完全に放棄されて密林に覆われ、1860年にアンコール遺跡が再発見された。

最もアンコール・ワットの姿をきれいに見られるのが「聖池」をはさんだ対岸だという。5基の尖塔と水面に映る姿は確かにきれいだった。

アンコール・ワットを後にして、すぐ脇にあるプノンバケンという小山に上った。

アンコ-ル・ワット全体を見下ろせる。あたりは熱帯のジャングル。かつて、アンコール遺跡を覆い尽くしていたという。

プノン・バケンから見たアンコール・ワット

かなり向こうの方で、竜巻のような黒い雲がみえた。そういえば、ナーガの頭をなでてしまった。

「早く下りないとスコールが来る」と、夕日どころではなく(どうせ見られないので)ガイドにせかされながら山を下り、車に乗り込んだ瞬間、土砂降りになった。

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