九寨溝(中国)

樹と水が作り出す絶景

九塞溝は1日ではゆっくりとみられないので、2日に分けて行った。泊まったホテルは九寨溝賓館という。夜中、窓をたたく雨の音に目が覚めた。「天気は期待できないな」と、ちょっとがっかりしながらもう1度寝た。

朝。散歩に出たらかなりの冷え込みで息が白い。雨は上がったが、周囲の山も霧をかぶっている。ガイドの趙さんは元気に「今日はきれいですよ」という。半信半疑でバスに乗り込み、上っていくと、昨日に比べて空気が澄んでいる。理由は舗装されていないバス道の土ぼこりがこの雨で舞わなくなったからだという。

車窓から見る水の色も、前日より青さを増して見える。周囲の山の紅葉もこの冷え込みで一層進んだようだ。一晩で赤も黄色もずいぶん色が変わっていた。この日はY字の真ん中、樹正溝を巡る。まずは樹正群海で降りた

運よく、日差しが時折戻ってきた。九寨溝を代表する景色と言われるのは、池、川、滝がいくつも交互に連なっているから。流れの横の緩やかな坂道を、ゆっくりと遡って歩く。500~600メートルは歩いただろうか。群海の長さはもっとありそうだ。

ところどころに小さな橋が懸かり、流れのすぐ上を歩ける。名前の通り、水の中に流根を漂わせた「樹」がたくさん生えている。

川岸に小さな小屋がいくつもあり、チベット仏教の経典が書かれたマニ車が置置かれ、水車の力を利用して回っている。

チベット仏教のマニ車の知恵

マニ車を1回回すと1回お経を読んだことになる。チベット仏教の寺院によく設置され、普通は手で回す。ここのマニ車は水車のお陰で常に回り続け、お経を読み上げている状態になっている。信心深いチベット族の工夫の1つなのだろう。

樹正群海の行き止まり(上流だから始まりか)が、樹正瀑布。大きな滝の1つで、上流の2つの谷から水が合流してくるので水量も多い。滝の横を上がっていき、上から見下ろすような感じになる。

滝の横を上ると、チベット族の村「樹正寨」に着く。9つの寨の1つ。入り口にタオチャというチベット仏教の経典を書いた幟がはためく広場。その先がチベット族の村の様子を残した民俗文化村になっている。
樹正寨で休憩した後、ブラブラと樹正溝を遡っていくと、名前の付いた池が現れてくる。

「海」の絶景が連なる

「老虎海」。ここから流れ出る水が滝になり、その音が虎の鳴き声に聞こえたというが、ガイドの趙さんは「後ろの山の紅葉が進むと、虎のような模様になって水面に映るんです」と新説を強調していた。

「犀牛海」。こちらも紅葉がきれい。その昔、仙人が引いてきた牛をここにつないだという。バス道側から橋を渡って対岸からも景色を楽しめる。上流側、遠目に山がちょうどV字に連なり、この九寨溝という谷の様子を実感できる。

「鏡海」。風がないときは水面が鏡のようになり、背後の山を映しだす。ここは少し紅葉が進んでいて、水面に鮮やかな紅葉の赤が刷り込まれ、黙って見ていてもあきない。

ただ、池の周りや道には座るところがない。変にベンチなんかを置くのも野暮だが、土がむき出しの土手に立ったままながめるのも…草むらにでもなっていれば、ゆっくり座ってみたいところだ。
足は確保しやすい。点在する観光ポイントに必ずバス停がある。ここはどこか、どこ行きのバスが止まるのかも明示され、自由に乗り降りできる。運賃は入場料に含まれているので、時間を見ておいて周辺を散策するのに便利だ。
山奥、秘境と言われる地にしては、洗練された仕組み。バスに揺られ、これから樹正溝下流にあるいくつかの池を見ながら、下山していく。

水中のスターマイン

どんどん見ていこう。「臥龍海」。池の中の倒木に石灰分が着き、水中を泳ぐ龍のようにみえる。なかなかうまいネーミング。高い位置から見る方がより「龍」を感じられるという。
「火花海」。池の中に石灰分の固まりが点在し、花火のようにみえる。打ち上げ花火のスターマインが水中に開いた感じか。

「芳葦海」。葦が茂る、ここでは珍しい池。枯れてうす茶色になった葦原の中を、鮮やかな青色の川が流れていく光景は、不思議なコントラスト。この風景は九寨溝でも上位に入れたい。

最後にバスで少し離れた「盆景灘」を訪ねた。水の中から顔を出している小さな岩や石の上に小さな木が生えているのが、盆栽の鉢がたくさんあるように見える。あたりも薄暗くなってきた。下山のバスを待ちながら、谷間らしい、狭い空を見上げた。

1992年登録

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