
グヌン・ムル国立公園(マレーシア)
目次
ミリ~ムル~ディア・ケイブ~ラング・ケイブ~クリアウォーター・ケイブ~ウインド・ケイブ
マレーシアに世界最大級の鍾乳洞がある。2005年、行ってみた。
クアラルンプール経由でボルネオ島のマレーシア領、サラワク州ミリという街で1泊。翌朝、「グヌン・ムル」(Gunung Mulu)の玄関口ムルに向かう飛行機は、小さなプロペラ機だった。
飛び上がると眼下に広がるジャングルと曲がりくねった川の景色に見入る。30分ほどで着いたムル空港は小さく、店も屋台のようなみやげ物屋と食堂が開いているだけだった。
最大級の洞窟へジャングルの木道を行く
グヌン・ムルは400万年前にサンゴ礁が隆起し、水の侵食で100以上の鍾乳洞があるという。観光客が入れるのは4つ。ガイドによると、空港からまず「ディア・ケイブ(Deer Cave、洞窟)」「ラング・ケイブ(Langs Cave)」を目指すという。
国立公園入り口から歩き始めた。ジャングルの中に木道がつくられ、直接地面を歩かない。左右に広がる森には、見たことがない形の蝉とか、でかいムカデとか、毛虫の類とか、いろいろといる。
木道の手すりにもけっこういるので知らずに触ってしまうことはあるが、襲ってはこなかった。樹液を毒矢に使った木などもあるので、興味があれば近づいてもいいが、木道から地面に下りるとどうなるかは保証しない。
2時間ほど歩くと、ディア・ケイブに着く。世界最大の鍾乳洞といわれ、最大幅約175㍍、天井までの高さ約120㍍、約2㌔のトンネル状になっている。
洞窟内に立ち込めるアンモニア臭
入口に着くと、鼻を刺激する臭いでたぶん顔をしかめることになる。元々は鹿が水を飲み来ることから名前がついたが、今の主はコウモリ。その数は300万とも500万ともいわれるそうだ。
それだけ天井に止まっているのだから、フンもそこら中に積もる。遊歩道に落ちたものは少しどけられているが、その周囲には細かい土のようなフンが大量に積もり、アンモニア臭が立ちこめている。
コウモリの死骸もあちこちに落ちているので、踏まないように。人間の鼻はすぐなれてしまう優れもので、少しするとあまり気にならなくなってくる。
洞内は明かりがあるが、届かないところもあるので懐中電灯は必需品。フンの山の中にいるミミズのような生き物をガイドが見つけ、私の手のひらにのせてくれた。
「ライトを消してみてください」というので、暗くしてみていると、生き物が動く跡が蛍光色に光る。「逃げるときに光るフンを出しているんです」と説明されるころには、何の抵抗もなく触れるようになっている。
「振り返ってみてください」と言われて入り口付近を見た。「だれかの顔に見えませんか?」。リンカーンの横顔かな。
鍾乳洞といえば、きれいな鍾乳石などがありそうだが、あまり目につかなかった。巨大すぎてわからなかったようだ。
石灰岩と水の芸術を見られる洞窟
ディア・ケイブの隣にあるのが、ラング・ケイブ。研究者の名前を取ったという洞窟は、鍾乳石や石筍の宝庫だった。
鍾乳石にはたくさんの種類があるそうだが、おおざっぱにいうと、上からつららのように下がっているのが「鍾乳石」、下からたけのこのように伸びているのが「石筍(せきじゅん)」、それが互いに伸びてくっついてしまうと「石柱」になる。
ラング・ケイブ中でも人気なのは「くらげ」のような巨大な石灰岩だ。
鍾乳石か石筍か石柱か、よく分からない形をしているが、1年間に1㍉程度しか成長しないというから、これだけ太るには相当な年月がかかっている。
おもしろい鍾乳石や石筍を見つけた。長さ自体は短いのだが、横にも伸びて櫛のようになっている。石灰を含んだ水が風に吹かれて、横にも伸びたという。
波のようにくねったひだのように成長しているのもある。自然というのは、不思議な形を生み出すものだ。石灰岩と水、風がつくり出した芸術品といった感じだ。
数百万のコウモリが飛び立つ姿
洞くつを出てからも見ものがある。ラング・ケイブを見た後、ディア・ケイブの入り口付近を見られる広場に行く。長いす風の腰掛もあり、子ども連れの地元の人や、観光客が集まってきていた。
「日没直前に始まります」とガイド。しばらく洞窟の入り口に目を向けていると、崖にある上部からコウモリの群れが竜巻のように渦を巻きながら、空へ飛び立ち始める。
1グループ数千匹はいるだろうか。1つ飛び立つと、次のグループが…と、割と規則正しい間隔をあけ、ジャングルへ飛び立っていく。残念ながら薄暗くて当時のカメラでは収められていなかった。
その形は龍のように見えることから「ドラゴン・フライ」といわれるそう。目的は食事。洞窟内のコウモリすべてが出かける訳ではないというが、1日1匹あたり5グラムの虫を食べるコウモリが500万匹だったら25トン! そんなに虫がいるジャングルの豊かさのほうに感心する。
ボートで川をさかのぼる
その日は、ジャングルの中にある「ロイヤル・ムル・リゾート(現ムル・マリオット・リゾート&スパ)」というホテルに泊まった。客室も廊下も高床式になっている。
ホテルはメリナウ川に面している。道もあまりないので、このあたりでは船が重要な移動手段になる。
夜、野生動物を船で探しに行くツアーがあったので出かけてみた。船外機付きの細長いボートで行き、川岸に姿を見せるはずのさまざまな動物を探し回る。時折、森の木や草が動くので、ボートを止めてじっと待ったが、残念ながら動物には会えなかった。
代わりに、森の豊かさは十分実感する。ボートの光に誘われて、周りは小さな虫だらけ。幸い、刺されはしなかったが、目、鼻、口に飛び込んでくる。
翌朝、同じボートでメリナウ川を遡る。目指すのは「クリアウォーター・ケイブ(Clearwater Cave)」と「ウインド・ケイブ(Wind Cave)」。名前からして爽やかそうだ。
川の両岸はもちろんジャングル。水鳥が飛びまわる。サルもいるそうだが、出てこなかった。途中のペナン族の村で一服して、さらに遡る。
きれいな水が生む景色
クリアウォーター・ケイブは、その通り、きれいな水が洞窟内を流れている。船着場から急坂を上り、入り口につく。
「レディ・ケイブ(Lady Cave)」と「リバー・ケイブ(River Cave)」の2つに分かれている。中ではつながっているという。
レディ・ケイブには、壁に映る影が女性のようにみえる石筍がある。ここから洞窟の名前がついたそう。確かに、石筍が映す影は角度によって女性像、しかもマリア像のようにみえる。
他にも鍾乳石のきれいな洞窟で、まだ新しいのか、石はそう大きくはないが、優雅さがあるように感じる。
リバー・ケイブのほうは、文字通り洞内を川が流れている。川の浅いところに入ってみた。水はそう冷たくはないが、流れが急。洞窟の奥、暗闇に向かって流れているので、足を取られるとどうなるか。少し不気味だ。
洞窟内では、遊歩道が鍾乳石などのすき間をぬうようにしてあり、まっすぐ立って歩けないようなところも多い。その分、間近に見ることもできるのが、ここの魅力かもしれない。
その地下水が外の世界にでるのは、切り立ったがけの下。湧き出し口には、きれいな水をたたえた池がある。泳ぐ人がいるため、水がにごってしまい、せっかくの「クリアウオーター」が台無しになったこともあって遊泳自粛中という。
そのほとりがテラスのようになっており、見学を終えてお茶を飲みながら一服。次のウインド・ケイブに行くには、また急坂を上ってがけの上に出なければならない。
風がつくった地下世界
ウインド・ケイブは文字通り、風が通る洞窟。風はそれほど感じなかったけれども、鍾乳石が風で侵食されて丸みを帯びているという。
この洞窟のハイライトは「キングス・チャンバー(王の部屋)」と名づけられたホールのようなところ。魔法使いの杖のような石筍が地面からニョキニョキと伸び、天井からか鍾乳石が無数に垂れ下がっている。
それも、他とは違って、細く長く伸びていて、つくしのような形をしているものが多い。ガイドの言う通り、丸みを帯びている。
照明がしっかりあるわけではないので全貌が見えないのが少しもどかしいが、無数の石筍、鍾乳石が密集している。王の部屋と言われるだけのことはある。
ホテルに絵葉書があったので買ってきた。王のテラスのイメージが分かるだろうか。
グヌン・ムル山(2377㍍)を中心とした国立公園内にある100以上の鍾乳洞は、まだ未踏のところが多いという。今はどんな洞窟が発見され、また公開されていくのかわからないが、楽しみが増えていくことだろう。
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