アンコール遺跡(カンボジア)
東南アジア最大の豊かな湖
アンコール遺跡群があるシェムリアップ郊外に、東南アジア最大の湖、トンレサップ湖(Tonlé Sap)がある。周辺の人々にとってはなくてはならない湖だという。翌日の午前中、小型船で湖に出た。
あまり深くないため、雨期には湖が広がって乾期の4倍以上になるらしい。乾季でも琵琶湖の4倍ぐらいというから、広がったら相当な大きさになる。
主に漁業を行う人たちが水上生活をしている。水上生活といっても、湖に浮かんでいるのではなく、湖面が上昇しても大丈夫という高床式の家だ。
雨期(5~10月)の終わりごろだったので水面が上がっており、ほとんどの家は湖面に浮かんだようになっている。住民は小舟を漕いで行き来している。この豊かな湖がアンコールの都市を繁栄させたのだろう。
店や学校などの公共施設も床下まで水没していた。ガソリンスタンドもあったが、この時期は車ではなく、エンジン付きの船が横付けしている。
湖を巡った後、ホテルで昼食と休憩が3時間もあった。ただ、無駄な時間ではなかったことが、すぐ分かる。食べ終わるころ、スコールがやってきた。
「バケツをひっくり返した」どころではない。一瞬にして、屋外の食堂から泊まっているコテージへの道が足首ぐらいまで水没する。
さっきまで道だったところにカエルが泳ぎ、ヤモリが建物の壁にしがみついている。そういえば、部屋にはスリッパではなく、ビーチサンダルが置いてあった。
微笑みの仏で満ちた寺院へ
豪雨が1時間ほどでやむと、日差しが戻ってくる。水の引きも早く、街中では人も自転車も、泥だらけではあるが、何事もなかったかのように行き交っている。時折襲ってくる強烈なスコールがいつくるか、地元の人は分かっているようだ。
雨が上がって、予定通り「アンコール・トム」(Angkor Thom)に行った。「遺跡群」とつけられているだけに、アンコール・ワットを中心に周辺には多くの遺跡が点在している。
アンコール・トムは都市遺跡で、アンコールは「都市、町」、トムは「大きい」の意味だという。元々都が置かれていた地に12世紀後半、ジャヤヴァルマン7世が王宮を再建した。
現地で買ったガイドブックによると、アンコール・トムは3㌔四方を城壁に囲まれており、東西南北4つの門がある。その1つ、南大門に行った。
敷地内に王宮、バイヨン寺院、バプーオン神殿、王のテラス、象のテラスといった遺跡がたくさんある。
南大門をくぐった。門というには豪華すぎるほどの装飾が施され「仏顔」が微笑んでいた。
アンコール・トムの中心にあるのが、四面仏顔塔で有名な「バイヨン寺院」。南側には、日本の狛犬のような石像が置かれ、巨大な塔がそそり立っている。
遠目にもその外壁には、テレビや写真で見た「仏顔」が彫られているのが分かる。ジャヤヴァルマン7世は敬けんな仏教徒だったという。
バイヨン寺院に入った。第一回廊の壁面にはたくさんのレリーフが彫られている。
アンコール・ワットのレリーフはインドの叙事詩やヒンドゥーの伝説などがモチーフになっていたが、「こちらのレリーフは王の業績や民衆の暮らしなどがテーマになっている」(ガイド)という。
特に、隣国チャンパ(現ベトナム中部)との戦いの場面が多い。戦いには象も動員されていたことが分かる。
上部のテラスに上がる。いわゆる「仏顔」、観世音菩薩の四面像と間近に顔を合わせる。
四面像は196体あるそうで、一つ一つ、微妙に表情が違う。四面像がある中央の塔は高さ約45㍍、上っていくとそこかしこで仏様が微笑んでくれるので、自然とこちらも微笑んでしまうのはどうしてだろうか。
忘れてはいけないのが、ここでも「ディバダー」。四面像の傍らにはもちろん、寺院のいたるところにたくさんの女神がいて、こちらも微笑んでいる。
見送られるようにバイヨン寺院を降りて、王宮に行くのかと思ったら「国王が来ることになって、立ち入り禁止だそうです」とガイドが悲しそうな顔。王宮前にある「象のテラス」「王のテラス」などにも入れないという。そういえば、軍人がたくさん遺跡内に立っていた。残念だが、こればかりは仕方がない。四面像とディバダーの微笑みに免じるしかなかった。
生きた「ディバダー」を見よう
シェムリアップでの夜、近くの野外劇場でカンボジアの伝統舞踊「アプサラダンス」をやっているというので、見に行った。神へ祈りをささげるための天女(アプサラ)の舞い。衣装からいっても、これが遺跡に刻まれているディバダーのイメージなのだろう。
少年少女が化粧をして鳴り物付きの音楽に合わせて踊り、劇もある。1000年以上前の宮廷の踊りだったという。当時、若い踊り手が多かったのは、ポルポト時代に、禁止されただけではなく、踊り手の多くが理由もなく殺害されたからだと、ガイドは教えてくれた。行ってから30年近く、このころの踊り手はもう大ベテランだろうか。
アンコール・ワットの壁画にあったような猿の将軍が王女にプロポーズしたり、男が女に振られたりなど、言葉は分からなくても、なんとなくストーリーはつかめ、コミカルで笑わせる場面も多い。簡単なつまみとワイン、そしてアンコール・ワットがラベルに描かれたビールでのどを潤しながら楽しんだ。
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